コラム
「やさしい日本語」①
優しい日本語の活用に向けた取組
執筆
市民局広報課
新谷 惠理子

◆はじめに
 2019年1月1日時点で、日本の外国人人口は過去最多の266万7199人となりました。改正出入国管理法の施行により、今後も更なる外国人人口の増加が見込まれ、「生活者」である外国人の受入れ体制の整備が求められています。横浜市においても、外国人人口はこの5年間で約3割増加し、2019年4月には初めて10万人を超えました。そして、その出身国・地域は約160にわたるなど多様化しています。こうした状況を踏まえ、本市では、多文化共生の推進に向けた具体的な施策として、「やさしい日本語」による情報発信の拡充に取り組んでいます。

◆「やさしい日本語」とは
 「やさしい日本語」とは、主に、日本語以外を母語とする読み手の立場で書き換えた平易で分かりやすい言葉のことです。「やさしい日本語」には全国で統一した基準はないため、発信者によって様々な書き換えのルールが存在しますが、一般的には使用する語彙や文法等を一定の日本語能力のレベルに合わせた言葉とされています。例えば、横浜市が考える「やさしい日本語」でAの文章を書き換えるとBの文章になります。
A
5月13日、14日はトライアスロン開催により、会場及びコース一帯にて、交通規制を実施します。周辺道路は混雑が予想されますので、車での来場は控え、公共交通機関をご利用ください。
B
5月13日と14日に横浜市でトライアスロンのイベントがあります。会場とコースの周りは通ることができません。道路が混むので、電車やバスを使ってください。※実際に広報する際は漢字にルビを振ります。
 書き換えのポイントは次のとおりです。①情報を取捨選択して一文を短く、②語彙を平易に(例:「交通規制」→「通ることができません」)、③受動態など難しい文法や助詞などを言い換える(例:「により」「及び」「にて」「予想される」)
 このように、情報を絞り、使用する語彙や文法に制限を加えることで、下線部のメッセージが受け手に伝わりやすくなるよう工夫しています。
 「やさしい日本語」の概念は、1995年に起こった阪神・淡路大震災の際に、日本語と英語による情報発信では外国人市民に十分に情報を伝えられなかった教訓から全国に広まったと言われています。現在では災害時に限らず、平時における活用にも広がっています。

◆活用を進める理由
 横浜市が「やさしい日本語」の活用を進める理由は主に二つあります。一つは、人口が増加し、多様化する外国人市民等に対して、全ての母語で情報発信を行うことが難しいこと。もう一つは、災害時に限らず平時においても、翻訳作業が必要な外国語と比べ、より迅速な情報発信が可能であることです。

◆基準の作成
 前述のとおり、「やさしい日本語」については、全国で統一した基準がないことから、まずは、横浜市が考える「やさしい日本語」の基準の作成が必要となりました。
 そこで、一橋大学の庵功雄教授をはじめとする研究グループと協力して検討会を立ち上げ、基本的な考え方や文法のルールをまとめました。さらに、横浜市国際交流協会や外国人市民ボランティアの協力を得ながら、行政がよく用いる語彙562語について、「やさしい日本語」の語釈を作成しました(表1)。

◆活用に向けた取組
 基準の作成後は、各職員がその基準に沿って「やさしい日本語」での情報発信ができるよう、意識啓発の取組を進めています。具体的には、職員が「やさしい日本語」への理解を深め、書き換えスキルを習得できるような実践的な研修を毎年度実施しています。また、「出前講座」と称して朝礼時間等に職場を訪問して行う研修や、自席で学べるeラーニングの配信も行っています。
 こうした取組に併せて、2017年度からは職員向けに「やさしい日本語」への書き換え支援システムの提供を開始しました。システムには主に書き換えを支援する機能と文章を診断する機能があり、職員が速く、効率的に書き換えられるようサポートしています。

◆外国人ボランティアの皆さんの声から
 基準づくりに携わった外国人ボランティアの皆さんからは、「やさしい日本語」について、「公の施設や病院、駅でやさしい日本語で説明されると本当に助かると思う」、「言葉がやさしいと便利。言葉が理解できれば誰にも頼らず外出でき、日本語の勉強にもなる。言葉を覚えることで住みやすくなる」といった声が聞かれました。

◆今後に向けて
 2019年10月には、台風19号の上陸後、長野県がツイッターアカウント「長野県防災」で外国人住民向けの相談窓口をやさしい日本語で案内したところ、4万件を超えてリツイートされるなど大きな反響がありました。
 横浜市においても、2019年8月に外国人人口の増加や多様化を背景として「横浜市多言語広報指針」を改定し、より積極的に「やさしい日本語」に取り組むことを明記しています。
 担当者としても「やさしい日本語」が持つ可能性や果たす役割は、外国人人口の増加によって今後ますます大きくなると考えています。